ホヴァンシチナ

作曲:モデスト・ムソルグスキー
台本:モデスト・ムソルグスキー
初演:1886年2月21日、サンクト・ペテルブルク、コノコフ劇場(アマチュア公演)。1911年11月20日、サンクト・ペテルブルク、マリインスキー劇場(プロ公演)。

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物語の背景
17世紀末のモスクワ。フョードル帝が夭折した後、ロシアは後継者問題に揺れた。結局、フョードルの実弟で、銃兵隊長官イヴァン・ホヴァンスキー公の後ろ盾を得た病弱なイヴァン帝と、異母弟のピョートル帝(後の大帝)が並んで帝位に就き、姉の皇女ソフィアが摂政を務めることになった。ソフィアはヴァシーリー・ゴリーツィン公という寵臣と手を組んでいる。ゴリーツィン公は、朝廷で幅を利かせるリベラル派の政治家であり、ソフィア皇女の愛人でもある。

第一幕
夜明けの聖ヴァシーリー大聖堂前広場。巡回中の銃兵が昨夜の武勇伝を自慢する。代書屋がやって来て店を開くと、そこへ大貴族シャクロヴィートゥイがやって来て、匿名の手紙を書き取らせる。それはイヴァン・ホヴァンスキーとその息子アンドレイが謀反を起こそうとしていると、ピョートル帝に告発する内容だった。広場の群集はロシアの現状を嘆くが、イヴァン・ホヴァンスキー公が銃兵隊を率いて登場すると、歓声を上げて迎える。彼は、愛国心が薄れつつある傾向を非難し、人民の敵と戦うことを約束する。息子のアンドレイ・ホヴァンスキー公が、エンマというドイツ人の若い娘を追いかけながらやって来る。アンドレイはエンマにしつこく迫るが、以前アンドレイの許嫁だったマルファが現れてエンマを助けてくれる。マルファは急進的なことで知られる分離派の信者だ。広場に戻って来た父ホヴァンスキーもエンマに目を留め、銃兵隊に命じて自分の屋敷へ無理やり連れ帰ろうとする。エンマを巡って父子が争っているところへ、分離派の指導者ドシフェイが割って入り、エンマの身柄をマルファに預ける。ホヴァンスキー父子は銃兵隊と共に広場を去り、ドシフェイは神の加護を祈る。

第二幕
書斎でヴァシーリー・ゴリーツィン公が摂政皇女ソフィアからの恋文を読み、彼女を信じてよいものか思案に暮れている。ゴリーツィン公は自分の運命を占わせようと、マルファを呼ぶ。しかし彼女が水盤で占った彼の未来は、裏切り、名誉の失墜、貧困、流刑、と出た。腹を立てたゴリーツィンはマルファを追い払い、道中で彼女を溺死させるよう家来に命令する。ロシアに対して抱いていた希望ももはやこれまでかと感慨にふけっていると、イヴァン・ホヴァンスキーがいきなり入って来て、貴族の力が低下したのはお前のせいだ、と言い立てる。激しい口論からもみ合いになりそうになった時、ドシフェイが割って入った。ドシフェイは、今こそ伝統や古き良き慣習を復活させるために力を貸してほしい、と両者に訴える。そこへゴリーツィンの刺客から逃げおおせたマルファが飛び込んでくる。ピョートル帝の親衛隊に助けられたと聞いて、ホヴァンスキー、ゴリーツィン、ドシフェイは動揺する。貴族のシャクロヴィートゥイが来て、ホヴァンスキー親子による謀反の計画があることを知ったピョートル帝が——実際にはシャクロヴィートゥイの密告によって知ったのだが——「ホヴァンシチーナ(ホヴァンスキーの陰謀)」に終止符を打つ誓いを立てたと伝える。

第三幕
分離派教徒の列が讃美歌を歌いながら銃兵隊の居住地を通り過ぎて行く。マルファは一人その場に残った。彼女はアンドレイのことが忘れられず、今でも彼の裏切りを恨んでいる。分離派教徒のスザンナは、マルファを魔女呼ばわりし、罪深い女と非難する。ドシフェイが2人の口論を止めさせてマルファを慰め、連れて行く。シャクロヴィートゥイがやって来て、ロシアの不幸な歴史に思いを馳せ、この国難を終わらせたまえと神に祈る。銃兵隊が喧嘩や酒の自慢をしながら騒々しくやって来るのでシャクロヴィートゥイは消える。女房たちが出てきて飲んだくれの夫たちと喧嘩を始める。そこへ脅えた様子の代書屋が駆け込んできて、ピョートル帝の親衛隊が援護する外国人の傭兵隊によって、近隣の銃兵隊居住区が襲われたと言う。銃兵隊と女房たちはイヴァン・ホヴァンスキーに反撃の指揮を執るよう求めるが、ホヴァンスキーは、ピョートル帝の考えに従い、事の成り行きを見守るようにと言う。銃兵たちは不安に脅えながら救済を祈る。

第四幕
イヴァン・ホヴァンスキー公邸の大食堂。彼は小間使いの娘たちに歌を歌わせ、大宴会を催しながら知らせを待っている。ゴリーツィン公からの使者が、彼の身に危険が迫っているという伝言を持って来るが、ホヴァンスキーは意に介さず、もっとにぎやかにやれ、と娘たちに命じる。シャクロヴィートゥイがやって来て、ソフィア皇女のお召があったと伝える。ホヴァンスキーが着替える間、娘たちは彼を讃える「白鳥」の歌を合唱する。出発しようとしたところで、ホヴァンスキーはシャクロヴィートゥイに刺されて死ぬ。

第五幕
聖ヴァシーリー大聖堂前の広場。群衆が見物する中、ピョートル帝の命によってゴリーツィンは流刑に処される。ドシフェイはゴリーツィン公の失脚とホヴァンスキー公の暗殺を悲しむ。ピョートル帝が分離派教徒の壊滅を指示したことを知ったドシフェイとマルファは、自己犠牲と殉教の時が来たと悟る。ドシフェイはマルファに、アンドレイを見つけて分離派に改宗させるよう促す。アンドレイがやって来るが、いまだにエンマを探している。マルファの話に耳を貸さないアンドレイだが、刑場へ連行される銃兵隊を見て、ようやく事態を把握する。彼は恐れおののきながらマルファと共に逃げる。ピョートル帝の伝令がやって来て、銃兵隊に特赦があったことを伝える。

第六幕
森の中の隠れ僧院。分離派教徒たちが最後の集会を開き、屈服するよりも集団自決することを決意する。ドシフェイは、古代ロシアの大義が失われたことを嘆き、救済は死の中に見出されるだろう、と信者たちに語りかける。親衛隊のラッパの音が遠くから近づいてくる。マルファは絶望に打ちひしがれたアンドレイを慰める。ピョートル帝の兵士たちが着いた時、教徒たちは炎に包まれて最期を遂げた。